2023年新種牡馬の現状を把握する【夏】

 2023年新種牡馬について、夏競馬終了時点での成績を振り返る。

【参考】2023年新種牡馬と初年度種付概況

※初年度産駒血統登録50頭以上の種牡馬のみ掲載。

2023年JRA新種牡馬リーディング(23.09.03時点)

1位:スワーヴリチャード

 初年度血統登録数は82頭と並程度だったが、JRA出走頭数は34頭とトップ。勝ち上がり10頭はJRA史上最速ペースで、早期始動から芝・ダート・距離の長短に関わらず結果を残している点が素晴らしい。母ピラミマ(その父Unbridled’s Song)の早熟性が強く遺伝されているのだろう。これで自身に見られたハーツクライ的(トニービン的)成長曲線も遺伝していた場合は、いよいよ手が付けられなくなる。産駒は総じて筋肉量の多い見栄えするタイプが多く、馬産地では初年度産駒誕生当初からそれなりの評価を受けていたが、育成場で動かし始めてから更に評価が上昇。正直に言えばこれらの意見について懐疑的だったが、実際これだけ走るのだから見る目を改めなければと反省している。

 自身は5代アウトブリードで、深堀りしてもHail to Reason4×7・Northern Dancer5×7程度。クロスのキツい母(特にNorthern Dancer)に対して無理なく配合できる点が本馬のセールスポイントと言える。Danehill~DanzigやGiant’s Causeway~Storm Catなどの北米Northern Dancerで締める配合が現状の成功パターンであり、これは父ハーツクライにも見られた傾向。レガレイラ=アーバンシックに見られる「ディープインパクト(サンデーサイレンス×ウインドインハーヘア)×Unbridled’s Song」のニックス再現も興味深い。

2位:ブリックスアンドモルタル

 開幕から2週連続で勝利を挙げたものの、その後しばらく流れが止まり、現時点では5勝に留まった。自身が5歳時に本格化を迎え、G1競走5勝を含む重賞6連勝を達成したように、産駒も仕上がりが早いわけではなさそう。遺伝力が強く、自身とよく似たバランス良く崩れない馬体を産駒に伝えている。Vaguely Nobleの血を引くだけに、馬群で揉まれるなどストレスの掛かる競馬への適性が低く、5勝中3勝は初角1番手。本邦におけるGiant’s Causeway~Storm Catのイメージそのまま、ワンペース高速巡行型の芝中距離馬というのが産駒のデフォルトになってくるだろう。

 自身がStorm Bird3×3(Storm Cat≒Ocean Crest2×2)という強烈なインブリードを持つので、産駒の代では『緊張→緩和』の方向に舵を切ることを第一としたい。Northern Dancer血脈の逃げ道確保は最優先課題であり、勝ち馬5頭中4頭はNorthern Dancerを内包しない母父(特にSS系)との配合で『3/4ND・1/4異系』としている。Storm Cat系らしく、フジキセキやフレンチデピュティと合わせると『Eight Thirty≒Good Example≒War Relic』血脈が刺激され、力馬っぽさが前面に出てくる印象も。クラシック路線を狙うのであればここは弄らない方がよいだろう。

3位:ニューイヤーズデイ

 入着は多かったものの中々勝ち上がりが出なかったが、8月末からようやくギアが入り現在2勝。自身はG1-BCジュヴェナイルを制した早熟マイラーだが、北米繋養時の産駒G1馬2頭も2歳からバリバリというタイプではなかったので、長い目で見たいところ。体型的にもあまり自身に似ていない産駒が多く、バラつきが大きいので傾向が掴みにくい。Machiavellian父系らしい万能性が表現されているというべきか、正直どちらに振れても超大物が出る可能性は低いと思うが、稼ぎ処に困ることはなさそうだ。

 父Street Cryの母に当たるHelen Streetの血はトニービンを内包する種牡馬と相性が良く、ウーマンズハート・チェーンオブラブ・サーマルソアリングなどが活躍。勝ち馬2頭ともに母がトニービンを内包することから、この配合は今後注目必至。自身がMachiavellan・Dixieland Bandを持ち、Boulevardの牝馬クロスが発生するなど、ネオユニヴァースとの配合も中々面白い。

4位:レイデオロ

 産駒は馬力型に出ている馬が多く、特に牡馬には「キングカメハメハ(Mr. Prospector×Special)×Roberto」による『Nashua≒Nantallah』血脈の影響を強く遺伝しているように見える。スピードの上限を問われる条件では分が悪く、短距離戦や高速馬場での末脚比べには不向き。極端な晩成傾向は出ないと思うが、現状仕上がり切らない内に使っている印象も否めず、中距離やダートが増える秋以降に成績を上げる余地は残されている。とはいえ当初の期待度からすれば物足りない成績であることには違いない。現場コメントやレース映像から気性難・口向きの悪さが伺える。コレに関しては成長に伴い良化するとも言い切れないので、少し様子を見たい。

 最低限の軽さを注入するために、サンデーサイレンスの血はなるべく入れておきたいところ。キングカメハメハ系種牡馬のセオリー通り、Nureyev≒Sadler’s Wells=Fairy Kingを弄るのは一先ず有効で、勝ち馬2頭はともにこの配合パターン。注目されていたウインドインハーヘアクロスだが、現状サイズが出にくい傾向が見られる。これはHyperion的資質の発現と考えられ、スタミナや成長力に期待できるが、反面早期始動に関しては望み薄。特に牝馬の場合は顕著に傾向が出ているようで、POGで狙うのは難易度が高い印象を受ける。

10位:モーニン

 JRAでは未勝利ながら、総合(JRA+NAR)ファーストシーズンサイアーランキングではスワーヴリチャードに僅差まで迫る2位と大健闘。NARファーストシーズンサイアーランキングでは2位以下に圧倒的大差を付けて独走中で、既デビュー種牡馬を含めたNAR2歳リーディングでも首位を確保している。NAR出走44頭中22頭勝ち上がり・計28勝・獲得賞金1億円超えと、NAR史上最速ペースで勝ち星を積み重ねており、仕上がりの早さに関しては歴代最強クラスの評価を与えてよいだろう。血統表通りの北米的早熟性が表現されているタイプといえる。産駒デビュー前から種付料をジワジワ上げており、初年度からこれまで種付頭数150頭以上と安定した人気をキープ。ダート三冠路線の整備や近年の地方競馬復興によりダート種牡馬需要が高まっているのも追い風か。絶対王者サウスヴィグラス亡き後、混戦のNARリーディングサイアー争いを制するのは本馬かもしれない。

 配合の方針としては、父ヘニーヒューズ同様『Eight Thirty≒Good Example≒War Relic』血脈の増幅を狙いたい。大井で圧勝続きのマローネアバンティは定番のヘニーフレンチ。

スワーヴリチャードはまだ常識の範疇だがモーニンはちょっと異常だと思う。

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