【POGデータ分析①】母馬の年齢

始めに

私はPOG指名馬選定の際、「血統(配合)」を最重視する。血統研究家を名乗っている以上それはそうではあるのだが、その他の要素を完全排除する訳ではなく、「生産牧場」「厩舎」「馬主」などの基本情報から、「母馬の年齢」「出生順」などの注目されにくい要素についても選定の参考としている。

本企画では「配合以外の要素」を過去の傾向から分析し、POG指名馬選定に役立つデータを紹介する。馬選びという観点では、一口馬主の出資馬選定にも通じる部分があるので、其々の用途に活用して頂きたい。

第一回では「母馬の年齢」を分析する。一般に「母高齢時の産駒は走らない」とされているが、キズナ(母20歳時の産駒)・ネオユニヴァース(母16歳時の産駒)など母高齢時の産駒が春クラシックを制することも少なくない。

本当に母高齢馬は走らないのか?」「母何歳の産駒が走る傾向にあるのか?

これらの疑問について、過去傾向から解答を導き出す。

データ分析

対象はノーザンファーム生産中央出走馬10世代(2009年産~2018年産)3763頭とする。

始めに示すのは、出生時母年齢別の頭数分布のグラフである。

頭数分布については一目見て分かるように、母7歳を頂点に逓増・逓減していく。

ご存じの通り、ノーザンファームはサンデーサラブレッドクラブ・キャロットクラブ・シルクホースクラブという3つの直系クラブを経営している。ノーザンファーム生産馬の約4割は上記3クラブで募集され、クラブ内規により牝馬は原則6歳春を以て繁殖に上がることとされている。

それを抜きにしても「6歳前後に引退、翌年以降に産駒誕生」というのが一般的なケースであり、その後加齢によって繁殖を引退していくことを考えれば、これは自然な推移といえよう。

逆に母4~6歳の頭数が少ないのは、「未出走での繫殖入り」や「年齢以外の理由での引退」などの特殊なケースであることが理由として考えられる。

このように、そもそもの母数に大きな差があることを踏まえ、各母年齢別の平均賞金額を用いて母年齢と競走成績との相関関係を分析する。なお獲得賞金額は2021年8月1日時点の成績を利用する。

次に示すのは、出生時母年齢別の平均賞金額のグラフである。

平均賞金額については、頭数分布ほど顕著ではないものの、概ね似たような形で推移している。

平均賞金額が最も高くなったのは、母12歳の3864.6万円。平均賞金3,000万円を一つの基準とすると、このラインを超えてくるのは母6~12歳の産駒となる。母13歳以降は基本的に加齢と共に下降していく傾向が見られた。また、母4~5歳についても、母6~12歳のグループの成績を下回った。

この結果から、母年齢は平均賞金額≒競走成績に少なからず影響を与えていると考えられる。鶏が先か、卵が先か…という話になるが、頭数分布と競走成績の推移の相似からは、現代競馬の合理的な生産サイクルを感じた。

ここまで全体についての傾向を確認してきたが、我々が最終的に狙いたいのはより多くの賞金を稼ぐことが出来る馬である。続いては、獲得賞金額高額馬についても同様の傾向が見られるのかを検証する。

次に示すのは、「賞金額3,000万円以上」「賞金額5,000万円以上」「賞金額10,000万円以上」の3つの基準での頭数分布と出現率のグラフである。

まず頭数分布だが、高額賞金馬に限定しても大まかな傾向に違いはなく、概ね母7~9歳を頂点に逓増・逓減する形となった。

賞金額3,000万円以上頭数が最も多いのは母7歳(132頭)、賞金額5,000万円以上頭数が最も多いのは母7歳(85頭)、賞金額10,000万円以上頭数が最も多いのは母9歳(40頭)である。

続いて出現率だが、他グラフと比較すると分かりにくいものの、母7~12歳に良績が集まっている。また、先のグラフと併せてみると、母12歳と母13歳の間が成績下降のポイントになっていることも読み取ることが出来る。

出現率の傾向をより分かりやすくするため、先の結果を「母4~6歳」「母7~9歳」「母10~12歳」「母13~15歳」「母16~18歳」「母19歳以上」のグループ毎に集計した。

このグループ区分では、どの賞金基準に於いても「母7~9歳」のグループが最も高い成績を示した。

各賞金基準で微妙な違いこそあるが、平均すると「母7~9歳>母10~12歳>母13~15歳>母16~18歳≧母4~6歳>母19歳以上」という順で成績が並ぶ。この結果は全体の平均賞金額の結果とも概ね合致する。

結論

以上の分析より、母年齢は競走成績に影響を与えており、母7~12歳(特に母7~9歳)が最も成績が良く、それ以前(~6歳)は正の相関、それ以降(13歳~)は負の相関があると結論付ける。

余談だが、成績の揮わなかった母6歳以下と母13歳以上のグループについても特徴を掴むため、各グループの獲得賞金額10,000万円超え馬に共通する要素を探った。

母6歳以下の億超え27頭中19頭(70.3%)は、牝系を辿ると母・二代母・三代母の何れかに重賞優勝馬を持つ。また、母13歳以上の億超え48頭中36頭(75.0%)は兄姉にも億超え馬を持つ。

この結果からは、「母馬の年齢」以上に「母ないし牝系が優れていること」の重要性が分かる。

あくまで血統・配合による素質の評価を第一にしつつ、より相馬の精度を高めるツールの一つとして「母馬の年齢」を利用していきたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です